
錦織圭選手の出場により日本でも注目が集まったウィンブルドン2015。伝統あるテニスの大会ですが、公式サイトやYouTubeチャンネル、各種SNSのオフィシャルページでは、試合映像だけでなくパフォーマンスデータの分析、選手インタビューや大会の裏側などの動画を積極的に配信し、ファンを楽しませています。
このように、スポーツの業界でも動画マーケティングに取り組む企業や団体が増える理由を、さまざまな事例から考えます。
オンライン動画市場が拡大していることはmovieTIMESで度々お伝えしてきましたが、スポーツの世界では特にその傾向が顕著なようです。
2013年の調査データでは、1年の間にオンラインでのスポーツ観戦が640%も増加しており、オンライン動画全体(440%)よりも大幅な伸び率を見せていました。この流れが今も続いていることは想像に難くありません。
画像参照元:http://www.cmo.com/content/dam/CMO_Other/ADI/OnlineVideo/video_benchmark_Q4_13.pdf
オンライン動画で世界中のファンを魅了するNBA
そんな中、YouTubeオフィシャルチャンネルに数千もの動画を掲載し、のべ28億回という驚異的な再生回数を重ねているのが、米プロバスケットボールリーグのNBAです。NBAは2005年にスポーツリーグとして初めてYouTubeチャンネルを開設するなど、一早く動画マーケティングに取り組んできました。
NBAファイナル関連の動画再生回数だけを見ても、その数は年々増えており、2015年ファイナルでは1.34億回を記録しています。MLBワールドシリーズの760万回、NHLファイナルの380万回と比較すると、その数字の大きさが際立ちます。
画像参照元:http://www.cnbc.com/id/102752715-Views-YouTube
動画の内容は試合のハイライトや名シーンのランキング、選手インタビュー、リーグの裏側など。NBAは、もっとも“商品”価値が伝わる試合というコンテンツを惜しみなく公開することで、世界中にファンを作り、ブランド価値を高めています。
さらに、短尺に編集された試合動画は、いつでもどこでも手軽に動画を視聴したいという現代の動画消費傾向にもマッチしており、ファン獲得の一因になっているのでしょう。
ファンとの心をつなぐCFLの動画マーケティング
続いては、全世界にファンを擁するNBAとは対極的に、地域に根ざしたスポーツリーグの動画マーケティング事例をご紹介します。
カナダのフットボールリーグ(CFL)は、シーズン開幕を盛り上げるため、「#IsItJuneYet(7月まで待てない!)」キャンペーンを展開。選手インタビュー動画に子どもを登場させるなど、リーグと選手がファンに近い存在として感じられる動画の数々をYouTubeチャンネル に掲載したほか、ファンや選手がSNSに写真や動画を投稿する際にこのハッシュタグを付けてもらい、ソーシャルメディア上で開幕への期待感を醸成しました。
その結果、キャンペーンの最終週だけで140万回以上のインプレッションを記録し、730回以上ハッシュタグが投稿されました。動画の本数や再生回数は多くありませんが、9チームから成る小規模なリーグであり、およそ3500万人というカナダの人口数を考えれば、その反響の大きさがうかがえます。
そんなCFLは2014年、テレビCM制作のために、ファンが撮影した動画をソーシャルメディアを通じて募集します。2週間足らずで2300以上の動画が集まり、シーズン中の好プレーのほかに、観客席で大歓声を上げるファンの様子、セルフィー動画など、スタジアムでの興奮が伝わるCMが完成しました。
このプロジェクトの背景には、地域のファンを大切にしたいというCFLの想いがありました。ソーシャルメディアを使うことで、テレビを見なくなった若年層を含む幅広い年代のファンを巻き込み、ファン目線のリーグを映し出すことで信頼と共感を得て、エンゲージメントの向上を図ったのです。
近年、地域とのつながりを大切にするスポーツリーグやチームが日本でも増えています。CFLのような小さな規模であっても、ソーシャルメディアをうまく活用すれば、選手やファン、メディアを巻き込んだ大きな盛り上がりを作れることを示した好事例と言えるでしょう。
新商品プロモーションで運動不足という社会問題に挑む
次に、スポーツウェアブランドのプロモーション事例を取り上げます。
Reebokは、韓国のオフィスワーカーの74%が日頃運動をしていないという調査結果に注目。新作コレクションの発売に合わせ、彼らが毎日通る地下鉄の駅を舞台に、電車の待ち時間で運動不足の解消を図るプロモーションを企画しました。
同社は、韓国内の大規模な2つの駅に、ランダムに光るボタンを素早く押してポイントを競うゲーム「Subway Pump Battle」を設置。ホームに居合わせた2人の乗客が突如画面に映し出され、1対1のゲームが始まります。参加者はいつの間にか必死にボタンを追いかけるようになり、勝者には最新スニーカーがプレゼントされました。
この動画は260万回以上再生され、SNSでもたくさんシェアされるなど、認知拡大と話題づくりに成功しました。
このように社会的課題に取り組みながら、企業やブランドのプロモーションにもなる施策は最近のトレンドの一つとなっています。健康や環境などとの関連が高いスポーツ業界では、これからも“ソーシャルグッド”な施策が生まれてくることでしょう。
注目のスポーツイベントで最先端の施策を展開
冒頭で触れた今年のウィンブルドンでは、大会スポンサー企業もさまざまな動画施策を行っています。
英国生まれの自動車ブランドJaguar(ジャガー)は、「#FeelWimbledon」と題したキャンペーンを展開中です。最新テクノロジーを用い、試合会場での観衆の動きや歓声の大きさ、ウェアラブルデバイスから計測される観客の心拍数、SNS上でのトラフィックを集計し、ウィンブルドンで日々高まるエネルギーを視覚化。トーナメント中の毎日、映像とグラフでその日の会場の熱気を世界中のファンと共有し、大会を盛り上げています。(サイト )
このように、世界の注目を集めるメジャーなスポーツイベントは、スポーツ関連企業やスポンサー企業にとって絶好のPR機会であり、ユニークな施策がたびたび話題を集めています。優れた企画やクリエイティブ、最新の技術を目にできるチャンスであり、スポーツファンならずとも見逃せません。
女性のスポーツ参加を促したカンヌライオンズ受賞作
最後に、今年のカンヌライオンズで新設されたLions Health部門でGrand Prix for Goodを受賞した啓発キャンペーン動画をご紹介しましょう。
イングランドでスポーツ振興に取り組むSport Englandは、スポーツに対する女性の意識調査を実施。すると、多くの女性たちは、自分の体型や運動能力に対する他人の目が気になり、運動を避ける傾向にあることが明らかになりました。
そこで今年初頭、女性のスポーツ参加を促すキャンペーン「ThisGirlCan」を立ち上げます。メインの動画では、Missy Elliotの有名な歌をバックに、ボクシングや水泳、バレーボールに挑戦する女性たちの姿を通して、もっとアクティブになるようメッセージを伝えています。
ご覧のとおり、この動画には鍛え抜かれた体を持つ一流アスリートは登場しません。代わりに映るのは、必死にスポーツに励む一般の女性たち。彼女たちがなりふり構わず、ありのままの姿で汗を流す姿を称えることで、多くの一般女性たちが容姿や能力に関係なく、健康的な身体づくりを目指すマインド作りを図っています。
動画はこれまでに840万回の再生を越え、#ThisGirlCanというハッシュタグも数百万回シェアされています。キャンペーンサイト には、女性一人ひとりにフォーカスした動画や記事のほか、ハッシュタグを使った写真や動画の投稿が今なお続いています。
今回は、幅広いジャンルの取り組みや事例を取り上げましたが、認知拡大や普及を図りたいマイナースポーツや、新しいファンを獲得したいスポーツ関連企業にとっても、さまざまなヒントが見つかったのではないでしょうか。2020年に東京オリンピックが控える今、スポーツ業界のさらなる盛り上がりに動画マーケティングが一役買う事例が増えることが期待されます。
参考
Jaguar Launches #FeelWimbledon Campaign Aiming to Capture the Mood of the Championships
http://newsroom.jaguarlandrover.com/en-gb/jaguar/news/2015/06/jag_xe_wimbledon_release_290615
The NBA Finals are blowing up on YouTube
http://www.cnbc.com/id/102752715-Views-YouTube
The CFL made a fan-created Grey Cup ad
http://www.marketingmag.ca/brands/the-cfl-made-a-fan-created-grey-cup-ad-131662
Innored Creates ‘Subway Pump Battle’ for Reebok in Korea
http://www.adweek.com/agencyspy/innored-creates-subway-pump-battle-for-reebok-in-korea/84278
This Girl Can
https://www.sportengland.org/our-work/national-work/this-girl-can/