
現在、「FIRST KISS」と題されたプロモーション動画が、YouTubeで話題を集めています。公開後1ヶ月半足らずで8000万回も再生されたこの動画は、Facebookでのシェア数約140万、Twitterでのツイート数は6万8000以上と、まさに口コミ(バズ)で拡散されています。
この動画を制作した米国のアパレルブランドは、今回のキャンペーンによってどれほど売上を伸ばしたのでしょうか。またどのような仕掛けがバズを引き起こしたのでしょうか。その大ヒットの理由に迫ります。
海外のマーケティング専門情報サイト「ReelSEO.com」が行ったインタビュー取材から、3つのポイントに絞って今回の動画キャンペーンが成功した理由を取り上げてみましょう。
まず「FIRST KISS」とはどのような動画なのか、その内容から説明します。
「FIRST KISS」は、初めて会った20人の男女にカメラの前でキスをしてもらう様子を撮影した3分強の動画です。男性と女性、女性同士、男性同士と組み合わせはさまざま。見知らぬ者同士、「あなたに合わせるからリードして」「あなたの名前、何だったっけ?」「ステキな目だね」など、互いに恥ずかしそうに話している2人が、やがて熱烈なキスを交わしていきます。
YouTubeで視聴したユーザーの反応は、「泣いた……」「とってもキュート」「情熱的だ」といったもの。初対面の2人が交わす情熱的な口づけのシーン。それが視聴者の本能を揺さぶったのでしょうか。
WRENの創設者でクリエイティブ・ディレクターのMelissa Coker氏によると、「FIRST KISS」の公開以降、WRENのサイト訪問者数は140倍に増え、そのうち96%は初回訪問者だったとのことです。さらに売上は、136倍近くに拡大したのだとか。
宣伝色を抑え、心から好きになってくれるコンテンツ
動画内にはブランドロゴなどの掲載は一切なし。動画をアップロードしたチャンネルもWRENのブランドとは直接関係ない個人のもので、目立つのは動画説明の欄に「Film presented by WREN http://wrenstudio.com/」と記してあるくらい。宣伝色をできるだけ排除してあります。
そうしたところも、WRENの戦略だったようです。Coker氏はReelSEO.comの取材に対して、次のように答えています。
―アパレル業界関係者ウケを目指すのではなく、消費者、特に私たちのやっていることを全く知らない人々に直接アピールしよう。そのために戦略を考えました。
―(動画では)意図的にあまりメッセージを表に出さないようにしました。代わりにコンテンツ自体が物語るようにしたかったんです。
消費者が興味の持てないコンテンツにたどり着くことを避けられるように、心から好きになってくれるコンテンツを彼らに提供したいと考えました。
もし世界中の誰よりもマーケティング予算を使えたとしても、視聴者が望まないものを提供したら失敗するだけでしょう。
WREN自体のブランディングは二の次。ディレクターを務めたTatia Pilieva氏のチャンネルから動画をアップロードしたのは、より多くのユーザーに観てもらうためだったそうです。
“ファーストキス”という自分事として感じやすい題材
“FIRST KISS”という題材を選んだのも、より多くの人に関心を持ってもらうためだったとCoker氏は語っています。
最近、アカデミー賞の授賞式で、司会者がサムスンのスマートフォンを使って受賞者を集めた集合写真を撮ってTwitterに投稿したことが話題になりました。これは後に、サムスンがマーケティング施策として、司会者に依頼したことだったと明らかになっています。
If only Bradley's arm was longer. Best photo ever.
#oscars
pic.twitter.com/C9U5NOtGap
— Ellen DeGeneres (@TheEllenShow)
2014, 3月 3
「スマートフォンを持っている人は、自分撮りをするでしょう? みんな、(アカデミー賞の自分撮り集合写真を)自分事のように感じたんです。『FIRST KISS』についても、同じように自分事のように感じてほしいと考えました。人気が出たのは、そう感じてもらえたからだと思います。ほとんどの人は、ファーストキスの思い出や、パートナーとの初めてのキスの思い出のことを好ましく感じていますから」
「みんなのお気に入り」ではなく「賛否両論が飛び交う」動画
再生回数が多く、男性と男性、女性と女性のキスシーンなども含まれているため、一部からは否定的な意見も出てきています。しかしCoker氏によると、それも狙いだったようです。
ー初めのうちに賛否両論が飛び交ったことには喜んでいます。その分、動画に関してのやり取りが続いているということですから。逆に、見た人全員がお気に入りになったとしたら、キャンペーンの効果は花火のようにすぐ静まってしまったのではないでしょうか
ここまでに取り上げた3つの方針を守ったからといって「FIRST KISS」ほど再生される保証はないわけですが、バズで拡散する動画を作りたいのなら、この3つの方針は必ず押さえておきたいポイントと言えるでしょう。
[参考]
FIRST KISS[YouTube] https://www.youtube.com/watch?v=IpbDHxCV29A
‘First Kiss’ Goes Super Viral, Revealed as Branded Video Ad : http://www.reelseo.com/first-kiss-video-ad/
'First Kiss' Viral Video Increased Sales by 13,600%, Site Traffic by 14,000% : http://www.reelseo.com/first-kiss-increased-sales-site-traffic/