
街中でよく見かけるようになったデジタルサイネージ(電子看板)。最近では、通行人を巻き込む参加・体感型が実現できる「インタラクティブデジタルサイネージ」が普及してきています。
そこで今回は、このインタラクティブ性を活用したデジタルサイネージの最新活用事例と、その実現を支える技術について解説します。
2010年に登場した「次世代型自販機」は近年、都心のエキナカを中心によく見かけるようになりました。人が自販機の前に立つと、センサーによって自動的に購入者の年齢層と性別を判断。さらに気温や時間帯などの情報を加味して、その人におすすめの商品を大型ディスプレイに表示してくれます。
まさにコミュニケーションができる自販機であり、インタラクティブな機能を持ち合わせた一種のデジタルサイネージと言えます。
画像参照元:http://www.jre-water.com/pdf/100810jisedai-jihanki.pdf
このように、対象物によって反応を変化させるインタラクティブな機能を持ち合わせたデジタルサイネージが近年普及し始めています。
本記事ではこのような「インタラクティブデジタルサイネージ」をプロモーションに取り入れた事例をご紹介するとともに、どのような技術によってインタラクティブ性が実現しているかを解説します。
インタラクティブデジタルサイネージを活用したプロモーション事例3選
■女性にだけビールをすすめるデジタルサイネージ
ドイツのビールブランド「Astra」は、女性のビール購入を増やすため、女性にだけ好意的な反応をするデジタルサイネージをバーの前に設置しました。埋め込まれたカメラで性別と年齢を分析し、大人の女性だけにビールを勧めるという、画期的な取り組みです。
男性に対しては「そのまま歩いて。男性用のものはないよ」などとつれない態度。子供にも「ビールは16歳から!」と忠告したりと、70種類以上のパターンの動画を駆使して、まるで会話をしているかのように楽しめるこのデジタルサイネージは、多くの女性の注目を集め、バーには列ができるほど。この様子が話題になり、テレビやWebを始めとする多くのメディアに取り上げられました。
■人が近づくと大アクビをするデジタルサイネージ
ブラジルのコーヒーブランド「Café Pele」は、サンパウロの地下鉄ホームにデジタルサイネージを設置しました。人が近づいていくと、デジタルサイネージの中の人が大アクビ。それを見ている人がつられてアクビをすると、画面にコーヒーが映り、「眠い時にはコーヒーを」というメッセージが。その後、アクビをした人々にはコーヒーが配られ、試飲できるというプロモーションです。
ニューヨーク州立大学の調査によると、70%の人が「つられアクビ」をしてしまうとのこと。人間の習性とデジタルサイネージのインタラクティブ性をうまく利用した、巧みなOOH広告です。
■一歩ずつ近づいていくとリアクションが変わるデジタルサイネージ
口臭ケア商品「リステリン」のプロモーションのために設置されたデジタルサイネージは、見ている人が立つ位置によって、画面の中の人のリアクションが変化するというもの。サイネージの前には、画面に徐々に近づく4段階の足型があり、立ち位置が示されています。
一番遠い位置に立つと画面の中の人がこちらを見て、次の位置では身体をこちらに向け、さらに近づくと口元が緩みます。そして最後の60cmの至近距離(パーソナルスペース)に近づくと満面の笑みに変わり、リステリンの試供品がサイネージのBOXから出てくるという仕組みです。
本プロモーションでは、他人のパーソナルスペースに入る勇気を持つためにリステリンがお手伝いしますというメッセージを伝えています。人が立つ距離によって画面の内容を変化させることで、楽しみながらこのメッセージを体験することができます。
インタラクティブデジタルサイネージを実現するには?
デジタルサイネージにインタラクティブな機能を持たせる方法の1つとして、「Kinect(キネクト)」というデバイスがあります。
Kinectは元々、マイクロソフトのゲーム機「XBOX360」のために開発され、「物理的なコントローラを用いずに操作ができる体感型のゲームシステム」を実現させました。
画像参照元:http://www.xbox.com/en-US/xbox-one/accessories/kinect-for-xbox-one
主な機能は4つ。全身の動きを感知する「モーションセンサー」、骨格データを生成し追跡する「骨格追跡」、環境音やプレイヤーの音の違いを認識できる「音声認識」、顔を判別する「顔認識」です。これらの機能を用いることで、人の動きや位置によってゲーム操作が可能になります。
画像参照元:http://www.xbox.com/ja-JP/kinect/Kinect-Effect
ゲーム以外の商用利用が可能になったのは、2012年に「Kinect for Windows(※1)」が発売されてからです。それ以降、安価で高機能なセンサーとしてデジタルサイネージや医療分野にも活用され、インタラクティブコンテンツの普及に貢献しました。
Kinectの他にも、指先の細かな動きの認識を得意とするセンサーや、顔によって視聴者の性別や世代を認識する顔センサーなどがあり、それらを組み合わせることにより、ご紹介した海外事例のようにさまざまな表現方法が可能となります。
楽しい体験ができる場所に人は集まる
Kinectを使って話題となった国内事例が今年1月に新宿駅で行われた、近未来SFアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の劇場版公開のプロモーションです。映画の公開に先駆け、新宿駅にデジタルサイネージ広告が設置されました。
画像参照元:https://twitter.com/psychopass_tv/status/553119938911559680
『通行人の心理状態を数値化し、その数字が大きいと犯罪を起こす可能性が高いとして取り締まりの対象になる』という近未来システムをデジタルサイネージを用いて再現しました。
アニメの世界観がリアルに表現されているとファンの間で大きな話題となり、最大で1時間半以上も並ぶ行列ができたほど。押し寄せた人々の数は7日間でのべ約10万人にものぼったそうです。さらに、Web上でも大きな反響を呼び、Twitterへの関連投稿は4万件超え。最終的には、400媒体以上がこの取り組みを報じたとのことで、大きな波及効果が見られました(※2)。
多くの人が「広告」のためにここまで集まってきたのは、「面白いことが体験できる」からと感じたからでしょう。インタラクティブデジタルサイネージによって、「体験」が生み出され、多くの人の自発的な行動を促したのです。
情報を一方的に発信するサイネージ広告はこれまでも多く目にしましたが、インタラクティブ性を備えたデジタルサイネージを上手に活用することで、通常のOOH広告のような「一方通行の情報提供」ではなく、「体験を提供」することができます。
これにより、広告は受動的に見るだけでなく「参加し、体感できるモノ」となり、視聴者の記憶により強い印象として残ることでしょう。
さらに人は珍しいものを見たり、楽しい体験をすると誰かに共有したくなるもの。楽しい体験によってポジティブな感情を視聴者に生み出すことで、ソーシャルメディア上での拡散が期待でき、人が人を呼ぶいわゆる「バイラル現象」が期待できます。
デジタルサイネージ市場は2020年には、2012年の3.1倍の2520億円に成長する見込みとのこと(※3)。 今後は、ウェアラブルデバイスとの連携なども期待できます。
これからのOOH広告では、いかに人を巻き込み、楽しませるかという視点がますます求められていくことでしょう。
参考
(※1)Kinect for Windowsは生産は今後終了との発表あり。今後はXbox One用Kinectに統一されるようです。
参考:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1504/03/news081.html
(※2)出典・・・徹底的に“ユーザー参加型” ―「PSYCHO-PASS サイコパス」に見るアニメ宣伝の最前線
http://ddnavi.com/news/229403/2/http://ddnavi.com/news/229403/2/
(※3)出典・・・富士キメラ総研『デジタルサイネージ市場総調査2013』:http://www.fcr.co.jp/pr/13037.htm
Kinect - Wikipedia : http://ja.wikipedia.org/wiki/Kinect
モーションセンサーデバイスとは何か : http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1309/19/news011.html