
一般的にWEB動画の場合、30秒〜1分で半数以上の視聴者が離脱することから、視聴されやすい動画の長さは30秒〜3分程度であると言われています。
しかし今回ご紹介するのは、45分、6時間、25時間という非常に長い動画広告3本です。しかも演出は一切なく、ひたすら何かを映し続ける映像ばかり。
なぜ企業はあえて“長くつまらない”動画にしたのでしょうか?そこには共通して、長尺だからこそ伝わるメッセージがありました。
ライカ:これまで作られた中で最も退屈な45分間の広告
概要
老舗カメラメーカーLeica(ライカ)は、「The Most Boring Ad Ever Made?(これまで作られた中でもっとも退屈な広告)」と題し、新製品のカメラ「ライカT」を作る職人の最終作業工程45分間を、動画広告として丸々見せました。
ライカTは、世界初となるアルミニウムの塊から削り出したボディを使用しています。その製造工程は1.2kgものアルミニウムの塊を94gに削ったのちに、職人が45分もかけて手作業で磨き上げるというこだわりよう。一般的にメイキング動画は、ダイジェスト編集しコンパクトに伝えようとしますが、本動画では職人の手作業45分間をそのまま公開することで、クラフトマンシップを静かに、確実に伝えているのです。
ライカのコアユーザーを考えた上での動画広告
ライカブランドは今から100年も前に誕生し、世界の写真業界を牽引してきた高価なブランドです。現在に至るまで、世界各国でライカを手本とした類型機が次々と生み出されたことからもその存在の偉大さを感じることができます。このようなブランド背景があるライカに興味を持つ人々は、カメラに非常にこだわりをもつ人々や、ライカの製品としての美しさに魅力を感じる人たちと言えます。
「これまで作られた中でもっとも退屈な広告」はライカがそう明言するように、多くの人にとっては退屈な動画だとしても、ライカ製品のファンにとっては最も魅力的な映像となるのです。
実際、vimeoのコメント欄には、「Brilliant(素晴らしい)」「Greatest add ever(今までで一番素晴らしい広告だ)」などの賛美の声が上がっています。
ヴァージン・アメリカ航空:延々流し続ける6時間の広告
概要
ヴァージン・アメリカ航空は、ミュージカル調の機内安全ビデオを作るなど、ユニークで遊び心のあるプロモーションが得意なアメリカの航空会社です。今回は、「BLAH Airlines(ブラ エアライン)」という架空の航空会社を舞台に、NYのニューアーク空港からサンフランシスコまでの約6時間のフライトをそのまま動画にしました。
機内に搭乗しているのはすべてマネキン。子どもの泣き声や女性の鼻歌などが聞こえ、Wi-Fiは使えない、機内誌やイヤホンから流れる音楽もつまらないなど、BLAH=“退屈”の名の通りの空の旅が続きます。無表情のマネキンが、フライトのつまらなさを絶妙に表現しているのがポイントです。
”退屈”を疑似体験させる
サンフランシスコまでの約6時間ものフライトを丸々動画にしたことで、「こんな飛行機に乗りたくない!」とリアルに思わせることに成功させた本動画。
広告として見ると耐えられないほどの長さですが、実際のフライトではありえる状況が絶妙に表現されており、共感できる人も多いのではないでしょうか。
動画の途中では、窓から見える「ヴァージン・アメリカ」の機体を見るシーンがあり、そこからヴァージン・アメリカへの予約画面に飛べるような仕掛けもあります。
”ヴァージン・アメリカのフライトを選んでいればこんな退屈な思いはしない”というメッセージを退屈なフライトと比較するだけでなく、視聴者に疑似体験してもらうことで効果的に伝えています。
AFDMD:世界一長い広告は、ある人の退屈すぎる25時間
概要
スペインの公共団体「AFDMD」が作ったのは、”世界一長い”と銘打った25時間もの長さの動画広告でした。特設サイトでスタートボタンをクリックすると全画面表示で動画再生が始まり、右上に視聴時間がカウントされ始めます。
これはある人の1日を一人称視点で疑似体験できる動画。何やらベットで寝ている様子の変化のほとんどない動画が始まります。早送りやスキップなど操作がいっさいできないため、1分も経てばあまりのつまらなさにほとんどの人が再生をストップさせるでしょう。右上の「×」ボタンで動画を終了させたときに表示されるメッセージの意味とは……。
疑似体験をしたから”メッセージ”が刺さる
最後のメッセージは、「あなたはたった○分(動画再生時間)しか我慢できなかったのに、どうして他人には”何年何ヶ月も生きろ”と言えるのでしょうか」という意味。この広告は末期がん患者の一人称視点をひたすら流すことで、動画の視聴者がその人の退屈な1日を疑似体験できるというものだったのです。欧州が尊厳死の規制に動くなか、スペインの公共団体が公開しました。
最後まで詳細を明らかにせず、映像を見終わった後に突如メッセージを突きつけることで、「当事者はこんなにもつまらない。自分自身が我慢できていないのがなによりの証拠」という事実を視聴者に叩きつけています。
サイト:The longest ad in the world.
型から入るのではなく”伝えたいメッセージ”を大切に
冒頭でも述べたように、一般的なWEB動画はより多くの人に視聴してもらうために、30秒〜3分程度の短さでインパクトを残すのが良いとされています。しかしその常識を逆手に取った3つの事例は、長いからこそ説得力を増し、企業が伝えたいメッセージが私たちの心に響いてきます。
「動画は短尺にするべきだ」といった考えに縛られるのではなく、「伝えたいメッセージを伝えるためには長尺の方が良い」といった明確な目的の元制作された動画広告。今後も、「型」から入るのではなく、「伝えたい内容」からコンテンツを制作することが大切であることを思い出させてくれるプロモーション事例です。