
TubeMogulの日本法人、株式会社チューブモーグル代表取締役の近藤弘忠氏と、TubeMogulアジア担当副社長のスーザン・サロップ氏へのインタビューも今回がいよいよ最終回です。
動画視聴動向の変化への対応、アウトバウンド広告、モバイルシフトなど、日本の動画広告市場の展望について語っていただきました。
第1回目はこちら:「世界のDSPを牽引するTubeMogul日本法人新社長が語る動画広告の現在と未来」
第2回目はこちら:「日本の数年先を行く海外市場におけるTubeMogulの新たな取り組み」
海外向けアウトバウンド動画広告の可能性
瀧:今、インターネット広告の市場が約1兆円、テレビ広告の市場が約2兆円ですが、このバランスは今後変わっていくと思いますか。
近藤氏:我々が目指したいのは、動画広告を活用して、より効果の高いマーケティング活動のお役に立つことです。先ほども申し上げたように(第1回目)、動画広告とテレビCMをうまく組み合わせて、新しい、より効果的なソリューションを提供することによって、クライアントさんのマーケティング予算全体が増えるようにお手伝いできればと思っています。
瀧:日本でも若年層を中心にテレビ離れが進んでいる一方で、オンライン動画の視聴時間が増えているというデータも出てきています。
近藤氏:年齢層の高い人たちは今でも比較的長くテレビに接触しています。しかし私の子どももそうですが、若年層のテレビの視聴には変化が見られます。 一方、電車の中で動画を見るなど、動画コンテンツ自体はいろんなところで見られるようになっています。動画との接点が変わってきている事実を的確に捉えて、施策に落とし込んでいくことが重要だと思います。
瀧:オンライン動画の視聴者の中心が若年層だとすると、テレビ用の動画コンテンツをそのままデジタルの世界に持ってきても機能しない可能性も考えられますよね。
近藤氏:ターゲットがどんなコンテンツを求めているかを把握することが重要です。我々の世代で流行っていたコンテンツと、我々の子どもの世代で流行っているコンテンツは違います。うちの息子はYouTubeを見てゲラゲラ笑っていますが、私には全然分からなくて(笑)。その辺りを、このビジネスに関係する人たちがどう握っていくか。
いずれにしろ、動画でコミュニケーションをとるのが有効だというのは間違いないので、そういうところもきっちりお手伝いをしていける立場でありたいなと思っています。
瀧:ところで、最近海外からのインバウンドや海外へのアウトバウンドへの興味も高まっていると思いますが、その辺りはいかがでしょう。
近藤氏:日本の企業も国内だけでビジネスを完結できなくなってきているところがありますので、海外にも配信できるTubeMogulとしてはビジネスチャンスの一つだと思います。実際、ヨーロッパや東南アジア、香港などに動画広告を配信するアウトバウンドの案件も増えてきています。今後、東京オリンピックもありますから、アウトバウンド領域は伸びる可能性がありますね。
瀧:海外に動画広告を配信する場合、クリエイティブは変えていったほうがよいのでしょうか。
近藤氏:基本的にはその国の文化などに合わせてチューニングすることが必要だと思います。たとえば、カンヌ国際広告祭の受賞作を見ても、国によってかなり違うじゃないですか。海外ブランドが海外で使っているクリエイティブを日本でそのまま展開した場合、ちょっと違和感があることもありますよね。その辺りは、何が効果的なのかを見極める必要があるでしょう。
日本のモバイルシフトの行方
瀧:私自身もベトナムのインフォマーシャルに流す動画広告を制作したことがあるのですが、日本とはだいぶ違うなと感じました。日本では薬事上、完全にNGな表現なのに、これが一番ウケるんだと言われたり(笑)。
では最後に、今後の注目トレンドの一つ、モバイルについてお聞きしたいと思います。アメリカではすでにモバイルマーケティングに重点が置かれていて、日本でもモバイルシフトという言葉が飛び交うようになってきました。視聴デバイスがPCからモバイルにシフトしていくことで、どのような変化が起きていくでしょうか。
近藤氏:そうですね。PCは家で見るのがメインだと思いますが、モバイルはそれ以外の接触機会が多いので、より広がる可能性を持っていますよね。その中で、どういうシーンで動画を見ているかを捉えることが大事だと思います。たとえば時間つぶしで電車の中で見ているのか、テレビを見ながらなのか、とか。それによってクリエイティブを変えていく必要が出てくるかもしれませんね。
瀧:movieTIMESでもモバイルの動画や広告に関する記事を時々掲載しているのですが、実はそれほど読者の反応が高くないんです。日本でのモバイル動画広告はまだまだこれからという段階なのでしょうか。
近藤氏:日本ではまだモバイル動画広告の在庫が圧倒的に少ないですからね。
また、広告主の側も、モバイルデバイス上でのコミュニケーションに対する答えをまだ持てていないのだと思います。PCはすでにここ10年くらいやってきた経験があるので、こういうコミュニケーションをしたい、という答えを多分持っているんですよね。モバイルではまだそのイメージを持てていないので、とりあえず手をつけずにいるという状況じゃないかなと思います。
また、モバイルは効果測定が難しいというところもあります。PCはcookieベースの計測手段がいろいろ開発されていますが、モバイルはそれができないので。そういうところもTubeMogulとして何らかの手を打ちたいと思っています。
いずれにしても、オーディエンスのモバイルの接点は確実に増えていますので、これから日本でもモバイルはより重要になってくると思います。
瀧:なるほど。我々としてもモバイルの事例を積み重ねていくことが必要なんでしょうね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
プロフィール
株式会社チューブモーグル代表取締役 近藤弘忠
株式会社リクルートを経て、2000年にヤフー株式会社入社。営業企画部部長、商品企画部部長、広告PM部部長を歴任。2010年にグーグル株式会社入社。ディスプレイ広告営業部統括部長、広告代理店営業部本部長を務める。2015年7月、株式会社チューブモーグル代表取締役社長に就任。
TubeMogulアジア担当副社長 スーザン・サロップ
UCLA Anderson schoolにてMBAを取得。10年間の日本在籍期間中カタリーナ マーケティング ジャパンでVice Presidentをはじめ、さまざまなポストを務める。その後、DELL、Google、Ask.comを経て、TubeMogulのAPAC,Vice Presidentに就任。