
日本でも動画広告市場が盛り上がりを見せていますが、ビューアビリティ(視認性)の担保は業界全体の課題の1つとして認識されています。
広告を扱うメディアやプラットフォームの各社はビューアビリティを保証する広告メニューを用意し、広告主の利益確保を図る中、米国で行われた調査から、ビューアビリティと広告効果の関係を示す興味深い事実が浮き彫りになりました。
ビューアビリティとは?
はじめにビューアビリティ(viewability)について簡単に整理しておきます。
米Interactive Advertising Bureau(IAB)とMedia Ratings Council(MRC)が定めるガイドラインでは、以下の条件を満たした場合に、それぞれビューアブル(インプレッション)であると判断されます。
バナー広告:広告のピクセルの50%以上が1秒以上連続表示されている
大型バナー広告(242,500ピクセル以上):広告のピクセルの30%以上が1秒以上連続表示されている
動画広告:広告のピクセルの50%以上が2秒以上連続表示されている
オンライン広告を従来のインプレッション課金方式で配信する場合、PCやモバイルの画面内にまったく表示されていない、あるいは一部分しか見えていない状態でも1インプレッションとカウントされるため、広告主は見られていないインプレッションに対して広告費を払うという課題があります。
そのため現在IABを中心に、ビューアビリティ100%を達成すべくさまざまな試行錯誤が続けられていますが、残念ながらすぐに実現するのは難しいという現状があります。
そんな中、米IPG MEDIA LAB、CADREON、Integral Ad Scienceの3社が合同で、ビューアビリティと広告効果の関係を明らかにすべく、大規模な調査を実施しました。
「ビューアブル」でも必ずしも広告効果は期待できない?
9876名を対象に行われた本調査では、下の表のように、広告のピクセル表示割合、表示時間、広告種類、ロゴの位置、音声有無、配信場所などさまざまなパターンを用意し、アテンション(どれだけ目を引いたか)や広告想起における効果を比較しました。
(※ 本記事において「表示割合」「表示時間」とはそれぞれ、画面内に表示されている(インビュー)ピクセル割合、時間を指します)
結果1:ビューアビリティが高いほど広告効果は高くなる
表示時間および表示割合を変えて、それぞれの広告想起率を計測した結果が下のグラフです(3タイプの広告すべての結果を統合したもの)。
▽左:表示時間別の広告想起率、右:表示割合別の広告想起率
これを見ると、ビューアビリティが高いほど広告想起率が高くなる傾向にあることが分かります。
ただしIAB/MRCの定めるビューアビリティの基準(以下、基準)通りのもの(AT MRC STANDARD)と、それ以下(UNDER STANDARD)では、それほど大きな差がないことも見えてきます。「ビューアブルならOK」とは言えないのかもしれません。
結果2:広告に目を引くだけでは効果は期待できない
本調査ではアイトラッキング機能を用いて、どれだけ被験者の目を引いたか(アテンション)も計測し、アテンションと広告想起率の関係も調べています。
すると、ビューアビリティが高いほどアテンション率は高まるものの、アテンション率が高くても必ずしも広告効果が上がらないという結果が得られました。広告を一瞬目にしただけでは、その内容を正確に理解し、自分ゴトにできないと推測されます。
▽ビューアビリティが高いほどアテンション率(黒)は高くなるが、広告想起率(黄)は基準に達しても向上していない
結果3:ビューアビリティ基準以下でも「表示時間」で効果が高まる
3種類の広告フォーマット全体の平均で見ると、ビューアビリティ基準を上回ることで、広告想起率が16%も向上するというデータが得られました。これに対し、基準を下回っていても広告想起率6%UPという結果が出ています。
下の図は、基準以下、基準以上それぞれにおける広告想起率に対して、どのような条件がより影響を与えているかをボックスの大きさで示したものです。
▽(左)基準以下における6%向上の内訳、(道)基準以上におけるの16%向上の内訳
この中の基準以下(左)の内訳に注目すると、広告想起率6%向上という効果にもっとも寄与しているのは、「表示割合:基準以下、表示時間:基準以上」というパターンだということが分かります。
以上の結果から本レポートは、IAB/MRCの基準は表示時間と表示割合の2つの評価軸を採用しているものの、表示時間が担保されれば、表示割合が基準を満たしていなくても広告効果を見込めると考察しています。
結果4:動画広告の効果を左右するのも表示時間
それでは最後に動画広告にフォーカスして、表示時間/表示割合の組み合わせによりどのように効果が変わるのかを示すデータをご紹介しましょう。
表示時間(0.5秒/1秒/4秒/7秒)、表示割合(25%/50%/75%/100%)それぞれの広告想起率を表したのが次の図です。
▽縦方向に表示割合、横方向に表示時間ごとの結果をプロット
これを見ると、7秒以上表示されれば、広告ピクセルの4分の1しか表示されていなくても26%という高い広告想起率が期待できることが分かります。
また同じ7秒でも、100%表示よりも75%/50%表示の方が値が高くなっています。これは動画がストーリーとビジュアルで訴求する広告形態であり、必ずしも100%表示されていなくても訴求効果を担保できることを示唆しています。
ビューアビリティをKPIにしてはいけない理由
結論をまとめると、ビューアビリティが高いほど広告効果を期待できること、中でも「表示時間」が広告効果を大きく左右する可能性があることが明らかになりました。
ただし、もちろんこれはIAB/MRCの基準を否定するものではありません。
また、ビューアビリティは決してKPIにはならないことにも注意しましょう。なぜなら広告効果はクリエイティブやターゲティング、配信メディアなどさまざま要因によって変わり、ビューアビリティはその1要素に過ぎないためです。
例えば本レポートでは、ビューアビリティ基準を満たしていない動画広告でも、音声をONにすることで広告想起率が175%も上昇したとのデータを明らかにしています。また、バナー広告においてはブランドロゴを一番上に配置することで想起率が向上するとも述べています。
動画広告を配信する企業は、マーケティング目標を達成するためにいかに費用対効果の高い広告を実現するか、という文脈において、ビューアビリティに注視していくことが大切です。